館長だより 第92号
館長だより 第92号

館長の見聞録(40)

2016/10/23

   ☆ 山梨県立考古博物館と甲斐風土記の丘(その3)

 甲斐風土記の丘・曽根丘陵公園の目玉はなんといっても古墳である。

 甲斐銚子塚古墳、丸山塚古墳、かんかん塚古墳、大丸山古墳、稲荷塚古墳、博物館構内古墳、大小6基の古墳が整備保存されている。

 山梨県で最も古い古墳は、風土記の丘の西隣の山の尾根上にある小平沢古墳(前期中葉)という。

 県内唯一の前方後方墳で、全長は45mである。

 ここからは、農道工事のときに斜縁二神二獣鏡や勾玉が見つかっている。

 つづく前期の古墳に、風土記の丘内にある大丸山古墳、甲斐銚子塚古墳、丸山塚古墳がある。

 大丸山古墳は全長99m(または120m)の前方後円墳(4世紀中頃)である。(写真15 赤矢印)

 石室は上下二段に分かれた竪穴式で全国で二例しかない珍しい形式である。

 上の石室からは鉄製の短甲、刀剣類、鋸などが出土している。(写真16)

 下の石室からは人骨二体と石枕、三角縁神獣鏡が出土している。

 この古墳には見学路がなく、見学が叶わなかった。


 甲斐銚子塚古墳は、山梨県内で一番大きく、全長169m、前方部幅69m、後円部径92mである。

 築造は4世紀後半と推定され、古墳時代前期では東日本でも最大級の前方後円墳である。(写真17・18)

 墳丘は、後円部で葺石を葺いた三段築成で、前方部では葺石のない二段築成である。

 墳丘周囲には、墳丘に沿った形の周濠を伴う。

 1928年の調査で、後円部から竪穴式の割石小口積みの石室が見つかり、底は粘土床で、割竹形木棺の形跡が認められている。

 副葬品では、青銅鏡が5面出土している。

 種類は、三角縁神人車馬画像鏡1、内行花文鏡1、ダ龍鏡1、ボウ製三角縁神獣鏡1、半円方格帯環状乳神獣鏡1である。

 三角縁神人車馬画像鏡は、岡山県岡山市の備前車塚古墳、群馬県三本木古墳、福岡県藤崎遺跡の出土鏡と同笵(どうはん)関係にあるという。

 鏡のほかに、水晶製勾玉4、碧玉製管玉、車輪石6、鉄刀4、鉄剣3、鉄鏃片、短冊形鉄斧、腕輪形石製品1、石釧(いしくしろ)・貝釧、杵形木製品などが出土している。

 甲斐銚子塚古墳は、墳丘の規模も大きいが、副葬品の質も特上である。

 古代の甲斐国の王といえるほどの権力と富を持っていたと思われる。


 甲斐銚子塚古墳に近接して、丸山塚古墳がある。

 丸山塚古墳は、径72m、高さ11mの円墳である(写真19)。

 甲斐銚子塚古墳とともに国の史跡に指定されたので、指定名称は甲斐銚子塚古墳附丸山塚古墳と呼ばれる。

 墳丘は2段築成で、周濠を伴う。

 墳頂に割石小口積みの竪穴式石室がある。

 石室内からは、画文帯神獣鏡・鉄刀・鉄鏃などが出土している。

 さらに石室とは別に粘土床があり、石釧が出土したという。


 博物館近くに、かんかん塚(茶塚)古墳がある。(写真20)

 楕円形をした円墳で、径は東西約20m、南北約25mを測る。

 竪穴式石室から、鉄製の輪鐙、轡、鈴付杏葉や武器、武具が出土している。(写真21)

 出土した馬具は5世紀後半と考えられ、、これが県内最古の鉄製馬具とされている。


 これらの古墳は、下曽根・上向山地区にかけて東山古墳群を構成している。

 古墳時代前期の前半より大きい古墳を築造し、県内最大規模まで達し、中期後半には縮小している。

 後期古墳はべつの地区に築かれるようになり、この地の首長勢力の栄枯衰勢が感じられる。

 なお現在、出土品は東京国立博物館と当博物館とに分けられて所蔵され、展示されている。

 出土品は地元に所蔵されてしかるべきと私は思うが、どんなもんだろうか。


 博物館を訪れたとき、企画展「山梨のはにわ」が開催されていた。

 近畿地方では、古墳時代前期中頃より円筒埴輪が墳丘を飾るが、東日本では前期後半にならないと現れない。

 円筒埴輪が使われる以前に墳丘を取り囲んだのが底部に孔をあけた壺形土器である。

 山梨県のはにわがここから始まる。貴重なものが見られた。

 円筒埴輪、形象埴輪とすすみ、人物、家、馬など種類が増え、埴輪で当時の生活、祭祀などの場面を表現する。

 埴輪の歴史が概観でき、とても有意義だった。

 ただし、山梨県では全体に埴輪の量が少なく、それが山梨県の特徴という。

 最後のコーナーに飾られていた埴輪群の豪華さが群馬県・塚廻り古墳のレプリカとは皮肉なことである。


  写真 15:考古博物館の裏手に見える大丸山古墳(赤矢印)(『遺跡を歩こう』2006・山梨県立考古博物館より)

  写真 16:大丸山古墳出土の鉄製短甲(『遺跡を歩こう』2006・山梨県立考古博物館より)

  写真 17:甲斐銚子塚古墳(前方部より後円部を望む)(館長撮影・写真2枚より作成)

  写真 18:甲斐銚子塚古墳(上空より望む)(『遺跡を歩こう』2006・山梨県立考古博物館より)

  写真 19:丸山塚古墳(館長撮影・写真2枚より作成)

  写真 20:かんかん塚(茶塚)古墳(館長撮影)

  写真 21:かんかん塚(茶塚)古墳出土の鉄製馬具(『遺跡を歩こう』2006・山梨県立考古博物館より)

  写真 22:塚廻り古墳出土の埴輪群(レプリカ)(館長撮影)


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