考古学的にみると邪馬台国時代の集落の形態の一つに環濠集落がある。魏志倭人伝にみえる邑がこれであろう。
邪馬台国時代の国で確実なものに壱岐の原の辻遺跡がある。ここは大きな環濠集落である。
ほかに吉野ヶ里遺跡や平塚川添遺跡は復元されている環濠集落として有名であるが、関東からではいかにも遠い。
大塚・歳勝土遺跡は関東地方で唯一復元された環濠集落である。
古代史に興味のある人はぜひ見ておきたい遺跡である。
横浜市歴史博物館に行ったとき、隣接する大塚・歳勝土遺跡を見学した。その日は雨である。『神奈川県の遺跡』(有隣堂・1990)に両遺跡の解説がある。
大塚遺跡
≪横浜市港北区中川町に所在。早淵川をのぞむ標高約50mの台地上に立地。
弥生時代中期後半の竪穴住居跡約90軒・掘立柱建物跡10棟と、それらを取り囲む新旧2本の大規模な環濠を検出。
その規模や墓域と推定される方形周溝墓群と一体となる弥生時代中期の代表的な環濠集落。
1986年に国指定史跡。≫(要約)歳勝土遺跡
≪横浜市港北区大棚町に所在。大塚遺跡に隣接。
小谷戸を囲む台地上に中期後半の方形周溝墓を25基確認。
その規模は一辺が10〜15mほどで、主体部からの出土物は無し。
溝中より土器棺墓の検出あり。大塚遺跡とともに国指定史跡。≫(要約)
遺跡の見学には、ボランティアガイドの人による解説案内が頼める。遺跡のある台地入口には周辺遺跡の所在地とそれらの時代を示す年表がある。
大塚遺跡の周辺には、先土器時代から中世の山城まで遺跡が数多く見られ、いつの時代にも人々が活動するには適した場所と思われる。
遺跡の周りにはクヌギやコナラなどが植えられていて、当時の植生を再現している。
弥生時代の復元がもうはじまっている。
遺跡は柵を設けた土塁と環濠に囲まれていて、ムラへの入口には木橋がある。
環濠の内側と外側に2ヶ所づつの穴があり、それをもとに復元したらしい。
当時ムラには100人ぐらいの人が住んでいたらしい。
ムラのなかには7軒の住居と1軒倉庫が復元されている。
復元住居のに入ると、なかは意外に広い。
家を建てるには、まず地面を掘り、掘った土をまわりに積んで、そこに上屋を造るという。
床面が低く、屋根が高くなるので、家の中が広くなるという。
それを実感するために別の復元住居では、床面の上に地面の高さの足場が組まれている。
足場に乗ると屋根は低く、圧迫感がある。
だてに竪穴を掘ったわけではない。古代人の知恵がここにある。
竪穴を掘ると床が低くなり、外との高低差が1m近くなる。これで家への出入りには梯子を使うことになる。
床には梯子を立てた穴が見つかっている。
住居址の一つが、発掘されたときのまま保存されている。
もちろん、補強され人が入っても大丈夫になっている。
あいにく、この日は朝からの強い雨で、住居址のなかはプール状態で入ることは叶わなかった。
それでも、家を復元する前の様子がよくわかる。
復元前と後が両方見られたり、床面が低い理由を実感するなど、展示の工夫に感心する。
続いて、ムラ(大塚遺跡)から墓域(歳勝土遺跡)へ向かう。
木橋を渡って、環濠を越えたとき気がついた。
濠には水がたまっていない。
保存住居址では水没するほど水がたまっているのに、濠にはまったくと言っていいほど水がない。
大塚遺跡の環濠は空堀であることが、この目でしっかり確認できた。
全国の環濠が空堀かどうかはわからないが、関東地方で台地上にある環濠は、たぶん全部空掘だと思われる。
雨の日の遺跡見学も得がたい体験をさせてくれる。
歳勝土遺跡では盛り土をした墳丘部が復元展示されている。埋葬遺構からは棺の確認はされていないが、他の類例より板を組み合わせた組合式木棺が復元されている。
方形周溝墓の当時の様子がよくわかる。
めずらしいところでは、溝のなかから土器を組み合わせた壺棺が出土している。(現物は博物館に展示)北部九州では大型の合口甕棺が大量に出土しているが、関東地方での土器棺は興味深い。
内容的には系統が別であるが、ひとのすることは似るものである。
大塚・歳勝土遺跡は集落と墓域が一括で発掘された貴重な遺跡である。しかもそれが、邪馬台国につながる邑のありかたを彷彿させる。
雨に降られた遺跡見学ではあったが、目の前に展開する弥生時代に感激の時間であった。
写真1:大塚遺跡 全景 北西より。(『古代のよこはま』横浜市教育委員会・1986より)写真2:大塚遺跡 復元住居。(館長撮影)
写真3:大塚遺跡 発掘保存。水没寸前(館長撮影)
写真4:大塚遺跡 復元木橋、環濠と土塁・木柵。(ネット「邪馬台国大研究」より)
写真5左:歳勝土遺跡 発掘直後の方形周溝墓群。(『古代のよこはま』横浜市教育委員会・1986より)
写真5右:歳勝土遺跡 復元方形周溝墓。(ネット「邪馬台国大研究」より)
写真6:歳勝土遺跡 壺棺の出土状態。(『神奈川の遺跡』有隣堂・1990より)
|