館長だより 第4号
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館長のつぶやき(2)

2012/04/22

   ☆ 日本考古学協会の蔵書

 いま、日本考古学協会は、所蔵蔵書5万6千冊の取り扱いに苦慮している、という。

 朝日新聞(2010.10.11)が伝えている。

 ≪蔵書は、1948年の協会発足以来、全国の会員や自治体が寄贈してきた遺跡の発掘調査報告書や考古学関係の図書。
 なかでも、在野の研究者らによる地域の同人誌が多いのが特色だ。≫

 ≪そもそも、協会の蔵書はほとんど活用されてこなかった。
 長年の寄託先の市川考古学博物館では近年、蔵書の利用者が年に数人だったという。
 この10年間に寄贈された本は、所沢の倉庫の段ボール箱に眠ったまま。
 蔵書の目録の多くもデータベース化されていない。≫

 ≪そんな中、保管料だけは年間100万円余りとかさむため、協会の理事会は一括での寄贈を検討。
 昨年8月から受け入れ先を募った。
 国内外の大学や博物館などから6件の問い合わせがあったが、結局、応募したのは英国のセインズベリー日本芸術研究所のみだった。
 大英博物館のほか、九州大、立命館大などと協力関係にある実績を評価し、協会は今年3月、寄贈の覚書を交わした。≫

 この海外寄贈という理事会議決に、会員から反対の声があがり、489人の反対署名が提出された。

 その後、10月16日に臨時総会が開かれ、理事会案が否決され、英国への蔵書寄贈は白紙に戻る。

 現在、協会図書に係る特別委員会が対策を模索している。

 特別委員会は会員へ向けてアンケートを行なっている。(3月31日締切)

 図書保管の形態と施設、経費の調達法、図書の分割、図書の利活用、などである。

 会員の意思を調べることは大切なことである。

 しかし、こんな当たり前のことを知るのにどうしてこれほど時間がかかるのだろう。

 白紙に戻った10月からでも半年近く時間が経過している。

 その間も、負担となっている保管料はかさんでいる。

 民間の会社ならば、考えられないことである。

 だれのフトコロもいたまない。責任を取る人間がいないのである。どこかの国の役所と同じである。

 たぶん、これではいつまでたっても解決しないであろう。

 それはなぜか。解決を協会員の中だけで行なおうとしているからである。

 協会員だけで解決できることならば、とっくに解決しているはずである。

 このままのやり方で万が一、保管施設ができたとしても、今までと同様にだれも利用せず、運営費が負担になり同じ問題を繰り返すことになる。

 蔵書を手放し、管理を他の機関に委ねることが最良の方法なのであろうか、疑問である。

 寄贈先がミサイルを飛ばすような北の方の国だったら、決断しただろうか。

 たぶんしなかったと思う。しかし、自らの手で活用しないことに関しては英国でも同じである。

 5万6千冊の蔵書が、5万6千枚の浮世絵でも手放しただろうか。

 寄贈先がいつでも公開しますよ。ネットで見られるようにしますよ、といっても浮世絵ならば手放さないであろう。

 保存に最新設備の空調が必要で管理に年間100万円かかっても、手放すことは絶対に考えないであろう。

 それは浮世絵が高価であるからである。しかし、蔵書も浮世絵も、どちらも、先人達からの貴重な財産にかわりはない。

 協会所蔵の書籍を自分たちの私有物と考えているうちはダメである。

 大切な財産の管理を外国の機関に丸投げして、一件落着と考えるようでは哀しすぎる。

 蔵書が日本の大切な財産と思うならば、特別実行委員は公募すべきである。

 協会員の方々は学問研究の分野ではプロであるが、図書館運営では素人である。

 経費調達に会費の値上げを考えているようでは、やめたほうがいい。

 雑誌専門の図書館、大宅壮一文庫を見よ。自立運営をしている。

 有料入館もいい、有料会員制もいい、有料コピー、書籍販売、有料講演会、遺跡見学会もいい。

 あらゆる手段を講じて資金調達を考えるべきである。

 ただしこれらを協会員にやれといっても、無理である。運営・営業のプロに任すべきである。

 書籍は死蔵しているだけならば、ゴミ屑とおなじである。

 どんな方法をとったら、蔵書を活用できるか。どうしたら、みんなに積極的に利用してもらえるか。

 そして、利用者の研究が深まり、意見を交換し、図書館は情報を発信する拠点となる。

 最終目的はここにある。

 来館者を待ってるだけの図書館では自滅である。

 来館者獲得のために外へ打って出る戦う図書館を目指さなくてはならない。

 日本考古学協会の英断に期待する。


  写真:倉庫に棚積みされた、日本考古学協会の蔵書=2月、埼玉県所沢市、同協会提供 (ネット「asahi.com」2010年10月11日より)

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