正倉院展見学の前日に奈良県立橿原考古学研究所附属博物館に行ってきた。橿原や飛鳥は幾度となく訪れていたが、旅行社のツアーでは橿考研の博物館に一度も行くことができなかった。
やっと実現できて、うれしい。
博物館では、春秋と年2回の特別展を企画し、開催している。
訪れたときは、秋季特別展「蘇我氏を掘る」が行なわれていた。(写真1)
まず、最初が石舞台古墳の発掘の映像である。
数人の人夫が滑車を使い、石室に落ち込んでいる巨石を引き上げる。
背広姿の先生が支持をする。まわりで地元のひとや着物姿の女性らが見物をしている。
こんなめずらしい発掘調査、遺跡見学の映像を見たのははじめてである。
蘇我馬子の墓といわれる石舞台古墳の発掘様子が見られただけでも、この特別展は値打ちがある。
パンフレットに特別展の主旨が書かれている。〈蘇我氏は6世紀後半から7世紀にかけて朝廷でもっとも有力だった豪族として知られます。
蘇我氏はなぜ力を持つことができたのでしょうか?(中略)
蘇我氏は古代史の中でどのように評価できるのでしょか?(中略)
発掘の成果から蘇我氏の実像に迫ります。〉展示品は、国宝や国の重要文化財を含む蘇我氏ゆかりの33件である。
産経新聞(2016.11.8)に展示内容が詳しい。
〈展示されているのは、
光背の裏に蘇我馬子を示す「嗽加(蘇我)大臣」と記された金銅釈迦如来文殊菩薩像(飛鳥時代)や、
馬子が建立した飛鳥寺心礎で見つかった挂甲や玉類。
蘇我倉山田石川麻呂が創建した山田寺跡出土のセン仏(センは土+専、タイル・レンガ)や鴟尾、
蘇我氏の流れをくみ、藤原氏とも親交があった官人、石川年足の墓誌(奈良時代、国宝)も並ぶ。〉法隆寺・大宝蔵院の金銅製釈迦如来及脇侍像の光背のに「戌子年」と「嗽加大臣」の銘がある。(写真2,3,4)
銘により、この仏像は推古36年(628)の作と解り、鞍作止利作で、蘇我馬子三回忌用の仏像という。
蘇我氏と深い繋がりのある止利一族の卓越した技術、造形感覚で造られている。
飛鳥寺心礎出土の玉類は、勾玉、管玉、切子玉、ガラス小玉などある。(写真5)
金環、杏葉形金具、馬鈴などもある。
まるで、古墳の副葬品と見紛うばかりである。
後期古墳時代の副葬品と共通する品は、この時代の塔心礎出土品の特徴であるという。
石川年足の墓誌は、江戸時代、文政3年(1820)に、今の大阪府高槻市で発見されている。(写真6)
墓誌は、長さ29.6cm、幅10.3cmの金銅製である。
銘文には、年足の系譜や官職、没年などが6行130字にわたって書かれている。
墓から墓誌が出ると、墓の主がわかり、考古資料としてとても重要である。
近年、中国で「井真成」の墓誌が発見されたと新聞に記事がでた。
西安市内でのショベルカーによる不法工事の現場から発見されたという。
通常、墓誌は墓に埋納されるものである。
工事現場で墓が見つかり、その中から出たというならまだしも、墓以外からの発見とは問題である。
そのような場合は、とりあえず考古資料としては使わないほうがいいと思う。
〈稲目の孫にあたる推古天皇と竹田皇子の墓とされる植山古墳出土の歩揺付飾金具(飛鳥時代)や、
蘇我氏によって滅ぼされた2人の皇子の墓の説がある藤ノ木古墳出土の馬具(国宝)も展示されている。〉植山古墳の歩揺付飾金具は金銅製で、馬の背から尻にかけてつける革の帯を飾る馬具の一種である。(写真7)
古代の高度な金属加工技術で作られた逸品である。
藤ノ木古墳の馬具は金銅製の鞍の後輪である。(写真8)
鬼神・象・パルメットなどの模様が施された東アジア屈指の豪華な馬具である。
他に、レプリカの飛鳥大仏の頭部や、山田寺の仏頭もある。
通常、考古資料の展示は考古学からの説明に終始する。
土器ならば、出土地がどこで、何型式で、いつ頃のもので、形や模様の説明である。
なかなか歴史が見えてこない。
蘇我氏の活躍した飛鳥時代になると、考古資料にも多くの文字(金石文)がある。
記紀の記録もある。
考古学と文献史学の両面から歴史が語られる。
記録が遺物を解説し、遺物が記録を立証している。
今回の特別展は、展示内容に圧倒されながら、とても楽しい時間を過すことができた。
写真 1:平成28年度秋季特別展「蘇我氏を掘る」ポスター写真 2:法隆寺・大宝蔵院の金銅製釈迦如来及脇侍像(ブログ「平安時代の陰陽」より代用)
写真 3:光背にある「戌子年」の銘(ブログ「平安時代の陰陽」より代用)
写真 4:光背にある「嗽加大臣」の銘(ブログ「平安時代の陰陽」より代用)
写真 5:飛鳥寺心礎出土の玉類など(ネット「橿原日記平成25年5月2日」より代用)
写真 6:石川年足の墓誌(橿考研博物館展示会のご案内パンフレットより)
写真 7:植山古墳出土の歩揺付飾金具(ネット「飛鳥資料館「飛鳥の考古学2015」より作成」)
写真 8:藤ノ木古墳出土の金銅製鞍(後輪)(橿考研博物館展示会のご案内パンフレットより)
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