館長だより 第65号
館長だより 第65号

館長の見聞録(33)

2014/12/07

   ☆ 古代製鉄実演の見学

 先月開催された千葉県八千代市の沖塚遺跡での現地説明会に引き続いて、12月3日に現地で古代製鉄実演が行なわれた。

 八千代市で採集した砂鉄で、千葉県産の木炭を使い、八千代の鍛冶遺跡においての製鉄実演である。

 12時開始というので、10分ほど前に会場に行った。

 もう、設営された製鉄炉からは炎が上がっていた。

 製鉄には時間が掛かるので、少しでも燃焼時間を多く取りたくて、主催者側で準備ができ次第火を入れたらしい。

 炎と共に、主催者・八千代市郷土歴史研究会の熱気が伝わってくる。

 予定時刻に実演会がはじまり、八千代市長の祝辞と炭入れが行なわれた。

 市の広報か、地元のテレビ局か、盛んに写真や映像が撮られている。

 後援に八千代市の名前があるのも、ダテではないらしい。

 実演に使われた製鉄炉は、まず土台用にコンクリートブロックを1段敷く。

 その上に積み方を変えながら下から4段、2段、2段と3層にレンガを積んでいる。

 レンガの接合には耐火モルタルが使われている。

 写真で白く見えるのが耐火断熱レンガで、薄茶色に見えるのが耐火レンガである。

 使用されたレンガを削るなどをせず、JIS規格のままならば製鉄炉に規模は以下のようになる。

 4段積みレンンガは凸凹はあるが、1辺が約35cmのだいたい正方形で高さが26cm、一番下の段が炉底部分を形成する。

 下から3段目の四方にそれぞれ穴を作り、1ヶ所に羽口を入れ、送風機より風を送る。

 他の3ヶ所はひとまず塞ぎ、溶けた鉄ができたときの取り出し口となる。

 2段積みレンガの二つの層は一辺約30cmの正方形で高さが46cm。

 共にレンガ積みの中には一辺17cm四方の炉空間があり、内面に粘土で炉壁、炉床が作られている。

 製鉄炉の高さは全体で72cmとなる。

 その製鉄炉が、78×57cmの長方形で高さが12cmの土台ブロックの上に載っている。

 風を送るための羽口は、実演担当者の田中厳氏の製作という。立派な作品である。

 鉄を作るための材料は、砂鉄と木炭と炭酸カルシウムである。

 砂鉄は、桑納川沿いの北側崖斜面で、工事のため露呈した砂鉄層より田中氏らが採取。

 実演用に用意した砂鉄は5kg。

 砂鉄を炉に投入する時、炉内の温度低下を防ぐために、のり(テレット)をまぜてうすく板状に固める。

 木炭は、ホームセンターで購入した千葉県産を50kgを準備。

 炭酸カルシウムは、砂鉄中の不純物を取り除きやすくするためのもので、貝殻粉を用意。

 準備が終わったら、炉内に木炭を充満させ、点火。

 古代製鉄では、鹿皮の袋や木製の踏み込み式のふいごを使うが、今回は電動の送風機を使用する。

 炉の上部より炎があがり、炉内が乾燥し、内部に製鉄に必要な温度が得られたら、材料を投入する。

 炉内の温度は1400度にも達するという。

 砂鉄を入れ、貝殻粉を入れ、木炭を入れる。

 砂鉄と木炭の割合は1:10。

 これを何回も繰り返し、3時間ほど燃焼させる。

 会場のまわりにはのぼりがはためき、ムードがもりあがる。

 火を使う実験なので消防車も待機している。

 参加者は、一時間ほど見学しながら、説明を聞き、質問をする。

 鉄の取り出し予定は3時。1時間以上も時間があるので、参加者はしばし解散。

 そのまま見学を続ける人、近くのスーパーへ出かける人、一旦家に戻る人、それぞれ思い思いの行動をとる。

 炉からは、盛んに炎があがっている。

 私が3時少し前に会場にもどると、多くの参加者が戻っており、地元の子ども達も集まってきている。

 田中氏が、砂鉄を入れ、次いで重さを量った炭を入れ、これを投入の最後にするという。

 燃焼に思いのほか時間が掛かり、砂鉄の量は3kgで終了となった。

 あと30分ほどで、炭が燃え尽きれば鉄を取り出すという。

 取り出し口の穴から、はたして溶けた鉄が流れ出るか、期待がたかまる。

 炉穴の上から火の様子を見て、田中氏が取り出しを決める。

 まず、取り出し口を塞いでいた粘土の栓を抜く。

 溶けた鉄が流れ出るか、カメラを構え、シャッターチャンスを待つ。

 残念!穴の奥にまっ赤な塊は見えるが、鉄は流れてこない。

 田中氏が言う。温度が低いためか出口の鉄が固まっているようだ。

 そこで、炉を上から取り除いていくことにする。

 一層目を取り外し、二層目も取り除く。

 三層目の炉穴を上から覗くと溶岩のように溶けた鉄がみえるという。

 三層目を横倒しにして、溶けている鉄を取り出すことにする。

 横倒しにして、鉄の棒でかき回すと溶けた鉄がわかった。しかし、流れてはこなかった。

 上のレンガを取り除き、横倒しにするまでにかなりの時間が経っている。

 炉内は急激に温度が下がり、鉄の表面が固まってしまったようだ。

 それでも、水あめのように柔らかい鉄の塊がはっきりと確認できた。

 期せずして、見学者から拍手がおきた。

 地元の砂鉄で鉄ができた瞬間である。

 柔らかいマグマのような鉄を取り出すと、すぐに黒く固まった塊になる。

 それが荒鉄か、鉄滓か、私には判断できないが、鉄ができたことはまちがいない。

 その現場に立ち会えたことに、感動をおぼえる。

 八千代市郷土歴史研究会の皆さんの努力と熱意に拍手おくりたい。


  写真 1:炉内の温度を上げるために盛んに木炭を燃やしている。
      後ろのフェンスが東葉高速鉄道

  写真 2:実演用の製鉄炉。8段3層構造。

  写真 3:うすく板状に固められた砂鉄。

  写真 4:炉の上の穴から木炭を投入。

  写真 5:実演に使われた羽口。田中厳氏製作。

  写真 6:古代製鉄実演の説明をする田中厳氏。

  写真 7:のぼりをめぐらした会場風景。

  写真 8:火を使う実演のため消防車も参加。

  写真 9:炉の解体。出来上がった鉄を取り出すために上のレンガから取り除く。

  写真 10:上部をすべて取り除き、炉床を横倒しにする。

  写真 11:上から覗いた炉床。赤熱した鉄が見える。

  写真 12:炉内から取り出した荒鉄。冷却で黒くなる。

  写真 13:出来上がった塊が鉄である証拠に磁石に付ける。

  (写真はすべて館長が撮影)


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