「邪馬台国の会」のホームページにある「安本先生著作一覧」をみると、現在、共著も含めて105冊の書名がある。そのなかで、古代史関係で一番古い本は『邪馬台国への道』とわかる。
1967年10月に筑摩書房から出された新書版である。
カバーの内側に本書の紹介が書かれている。
≪ついに解けた古代の謎
天照大御神は、卑弥呼である。なぜならば、活躍の時代が重なり合うから。
邪馬台国は九州、甘木市のちかくである。なぜならば……。
戦後ながらく、神話は歴史とは無縁の虚構としてしりぞけられてきた。
著者は、近代科学の方法を組織的に駆使して、神話と歴史との空間をうずめようと試みる。
ここに、古代邪馬台女王国は、あらたな光のもとにその確かな位置をあらわしはじめる。
長い論点に瞠目すべき解答を与え、日本の黎明期に新たな視点を投ずる画期的な力作。≫この著書は、先に『科学朝日』誌上に発表した論文が元になり、発展深化したものとわかる。
内容は、四章にわかれる。
T 卑弥呼と天照大御神 ― 古代の空にかがやく女王 ―
U 高天の原 ― 日本のふるさと ―
V 邪馬台国 ― 女王の都するところ ―
W 水行十日、陸行一月 ― のこる疑問へ ―巻末の「おわりに」に、安本先生の邪馬台国問題への研究方法の立場が書かれている。
≪それは、ひとくちでのべるならば、文献批判(テキスト・クリティーク)の立場というよりは、
内容分析(コンテント・アナリシス)の立場である。(中略)
「内容分析とは、伝達内容を分析するための、客観的、体系的、数量的な方法である。」(B・ベレルソン)(中略)
内容分析学には、さまざまな定義がおこなわれているが、内容分析学の特徴として、
共通的にあげられているのは、数量的な記述を行なうという点である。
私は、質的な思考様式と、量的な思考様式とは、たがいにおぎないあうべきものであり、
研究目的に応じて、それぞれ正当な権利をもっているものだと考えている。(中略)
『魏志倭人伝』『古事記』『日本書紀』などについてのこれまでの方法による研究は、
ほとんど行なわれつくしたといってもよいだろう。
新しい方法なくしては、飛躍的な知識の増大はもはや望めない段階にきているように思える。
とくに邪馬台国の位置についての問題などは、系統的、組織的な方法によらないかぎり、
解決不可能なところまできているといえる。(中略)
私は、内容分析学が、邪馬台国問題を、すくなくとも文献学的に解決するための、
きわめて有力な方法であると考えているものである。≫つまり、邪馬台国問題への文献批判からの研究はしつくされた感がある。
新たな研究方法を用いなければむずかしい段階にきている。
そこで、安本先生は内容分析学を用いた研究が有効である、と考えられたのである。
安本先生は邪馬台国問題について、本書で内容分析学による考察を行ない、ひとつの結論に至っている。
≪内容分析の立場からみるかぎり、「邪馬台国=九州説」は、「邪馬台国=大和説」にくらべ、決定的に有利である。
だれがおこなったとしても、内容分析の立場からするかぎり、この結論は動かないであろう。≫今回、本稿では内容分析学による考察の中身についてはふれていないが、それは本書を読んでいただければわかるはずと思うからである。
本書には、読者の理解を助けるために、「コラム」や「メモ」が随所に見られ、非常にわかりやすくなっている。
『邪馬台国への道』は、安本学説の原点であり、入門の書でもある。
是非、一読をお勧めする。
(付 記)
なお、新書版の本書(1967)は、1977年に加筆、増補され、『新考 邪馬台国への道』として単行本になっている。
その後、類似の内容で、新書版の『卑弥呼と邪馬台国』が出され、それを改題して文庫本『邪馬台国への道』が出ている。
後に、前掲本等が入手困難となったので、最新情報を加えて『最新 邪馬台国への道』が出版されている。
どの本を読んでも有効である。
それらの本を一覧すると以下のようになる。
1967年『邪馬台国への道』 (新書版・筑摩書房) 〔75+250〕
1977年『新考 邪馬台国への道』(単行本・筑摩書房) 〔2249+250〕
1983年『卑弥呼と邪馬台国』 (新書版・PHP研究所) 〔420+250〕
1990年『邪馬台国への道』 (文庫本・徳間書店) 〔247+250〕
1998年『最新 邪馬台国への道』(単行本・梓書院) 〔2995+250〕
〔 〕内はアマゾンで販売されている現在の価格である。(+250)は送料。
写真上:『邪馬台国への道』(1967・筑摩書房)の表紙
写真下:左から『新考 邪馬台国への道』、『卑弥呼と邪馬台国』、『邪馬台国への道』、『最新 邪馬台国への道』
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