館長だより 第36号
館長だより 第36号

館長の見聞録(16)

2013/07/14

   ☆ 一支国 探訪 (その2)

 壱岐市立 一支国博物館

 待望の一支国博物館の見学である。

 博物館の建物は黒川紀章の設計によるもので、なかに長崎県埋蔵文化財センターが併設されている。

 ツアーの団体見学のため、館内は、学芸員のひとが案内をしてくれた。

 エントランスを右に入ると、原の辻遺跡から出土した遺物の収蔵庫がそのまま公開されている。

 こちらが埋文センターのスペースであろうか。

 隣の部屋では土器の復原や計測をしている。

 博物館の楽屋裏を見せる展示ははじめてである。

 二階にあがり、所狭しと土器を収めた棚をすぎると、壁三面に拡大された魏志倭人伝が書かれたところに出る。

 博物館展示のはじまりである。

 倭人伝の解説が済むと、つぎはビューシアターである。

 映像で2000年前の一支国の様子を見せてくれる。出演者は壱岐の市民エキストラという。

 映像は、丘の上からみた一支の国の遠景で終わる。

 なかなか、よくできている。場内が明るくなり、カーテンが開けられる。

 すると、全面ガラスの向こうに、いま映像で見ていた風景そのままがある。

 眼下に、住居や物見櫓が復原されている原の辻遺跡がみえる。こころにくい趣向である。

 ここの展示は現代から古代へ遡るようになっている。

 途中は割愛して古墳時代。

 笹塚古墳(円墳・6C第4四半期)の横穴式石室が原寸大で復元展示されている。

 この古墳は盗掘をうけているが、それでも新羅土器をはじめ多種の金銅製馬具などがみつかっている。

 金銅製亀形飾金具、金銅製辻金具、金銅製杏葉、金銅製轡、金銅製雲珠、鉄製ホ具、銅製匙、銀製空玉、青銅製三形鏡板付轡、ガラス小玉などである。

 なかでも秀逸品は、国指定重要文化財の金銅製亀形飾金具である。

 扁平な亀形の飾金具で、頭や甲羅の形からスッポンと思われる。

 この金具は、馬の顔につけるベルトの中央に飾られるものである。

 その細工技術の水準の高さはこの時期の馬具類でも屈指であり、亀形は現在世界で唯一のものである。

 次は実物大に復原製作された準構造船がある。

 準構造船は、一本の丸木を刳りぬいた上に板を囲んで作られている。

 朝鮮半島へ、倭国本土へと海の道を行き来したであろう古代の船である。

 バーチャル航海体験で、実際に船に乗って、櫂を漕ぐことができるという。今回は叶わなかった。

 最後の部屋が、原の辻遺跡である。

 中央に巨大なジオラマがある。部屋の壁面には出土遺物が並んでいる。

 ジオラマの漁労シーンでは、釣りをしたり、海にもぐってあわびを取っているひとがいる。

 壁面には骨製の釣り針やあわびオコシが展示されている。

 交易(市場)のシーンでは、ならべた魚に寄ってくる虫を小枝ではらっている売り子や、量り売りの米を求めている客がいる。

 壁面には、竿ばかりに使う青銅製の権(けん)や貨泉・五銖銭が並んでいる。

 ただし、この時代にまだ貨幣経済はなく、貨泉などは通貨としては使われていないと考えられている。

 弔いのシーンでは、穴に板石を組んで死者を埋葬しているひとや甕に死者を納めているひともいる。

 横には、人面石をささげ持つ巫女が立つ。

 壁面に人面石や副葬品の丹塗り土器、破砕された青銅鏡や勾玉、銅釧が展示されている。

 ジオラマと展示品を交互に見るとちょっと忙しいが、これも一興。内容はよくわかる。

 私が注目したのは、三翼鏃(さんよくぞく)である。

 この鏃は、秦の始皇帝がよく用いた弩(ど)専用の鏃である。

 倭国には武器として弩は伝わっていないが、この弩用の鏃が福岡・安徳台遺跡や兵庫・会下山遺跡、沖縄・浜屋原貝塚などからも出土している。

 それに、弩形木製品が島根・姫原西遺跡で見つかっている。

 倭国で弩は戦闘用に用いられていないようだが、弩が高性能武器であることは認識していたのかもしれない。

 大きなテーマが、三翼鏃には秘められている。必見の展示物と思う。

 もう一つの注目品がガラス製のとんぼ玉である。

 とんぼ玉は現在も作られ、愛用されているもので、そのもの自体は特に珍しくはないが、ここに展示されているとんぼ玉は国内最古の品である。

 二重丸の模様が3つ施され、中心には薄い青色のガラスが装飾されている。

 とても小粒ではあるが、貴重な資料である。

 出口へむかうと、もうひとつ展示スペースがある。しかし、なにも飾られていない。

 「出るかも展示」と説明がある。

 ≪この島には、まだ一支国の歴史を解明する大発見がたくさん埋まっています。(中略)
  発見されると、一支国はもちろん、日本の歴史を塗りかえる貴重な資料として注目されるものばかりです。≫

 出たら展示したい、いや出て欲しい、必ず出したい展示品目が書かれている。

  ・一支国の王が授けられているかもしれない「銀印」
  ・一支国に魏から特別に賜り品があったとしたらその品に押されている封泥
  ・一支国で文字の使用が行われていたとしたら出土するかもしれない筆とすずり
  ・鏡、玉、剣が揃って副葬されている一支国の王墓
  ・発掘されている船着場に来たであろう古代船

 一支国博物館の熱意、希望、自信を感じる。

 きっと、展示品はますます充実するであろう。

 入口に戻ると、エレベーターで4階の展望室へ上がる。

 壱岐で一番大きい深江田原(ふかえたばる)の平野が眼下に広がる。

 その平野の高みに、原の辻遺跡がある。

 遺跡の北側を東に流れる幡鉾川(はたほこがわ)があり、三重の環濠とともに王都を護る。

 幡鉾川の先には、魏や帯方郡からの遣使船が出入りをした内海(うちめ)湾が望める。

 この最良の場所にある原の辻遺跡が一支国の王都であると実感できる。

 書物だけからではわからないことが、現地でわかる。

 百聞は一見にしかず、至言である。

                                      (つづく)


  写真9:壱岐市立一支国博物館のリーフレット表紙

  写真10:ビューシアターの上映風景(『壱岐市立一支国博物館 常設展示総合ガイドブック』より)

  写真11:笹塚古墳出土の金銅製亀形飾金具(『壱岐市立一支国博物館 常設展示総合ガイドブック』より)

  写真12:復原された準構造船の古代船(『壱岐日記』壱岐市観光連盟発行のパンフレットより)

  写真13:一支国のようすを再現したジオラマ(『壱岐市立一支国博物館 常設展示総合ガイドブック』より)

  写真14:一支国博物館の展示品・権(『壱岐市立一支国博物館 常設展示総合ガイドブック』より)

  写真15:一支国博物館の展示品・貨泉(『壱岐市立一支国博物館 常設展示総合ガイドブック』より)

  写真16:一支国博物館の展示品・人面石(『壱岐市立一支国博物館 常設展示総合ガイドブック』より)

  写真17:一支国博物館の展示品・三翼鏃(ネット「壱岐市立一支国博物館 原の辻遺跡発掘概報」より)

  写真18:一支国博物館の展示品・とんぼ玉(ネット「壱岐市立一支国博物館 原の辻遺跡発掘概報」より)

         (一支国博物館の展示品の縮尺は不同)


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