11月の邪馬台国の会で特別講師の井上悦文さんが講演をされた。講演後、井上さんからご自身の著作を邪馬台国図書館へ寄贈していただいた。
井上よしふみ『草書体で解く 邪馬台国への道程』(2019・梓書院)である。
感謝申し上げる。
井上さんは福岡県甘木市(現朝倉市)生まれで、現在、中学校の教諭をされている。
先祖は秋月黒田藩の筆頭祐筆で、井上さんはその家系を継いだ書道家でもある。
本の副題に、書道家が読む魏志倭人伝 とある。
書体や文字に造詣が深い書道家の井上さんはいう。
〈『三国志』の原本が書かれた時代や撰者の陳寿が生きた時代、
元資料の『魏略』等が書かれた時代には、楷書体はその萌芽はあっても
まだ完成されておらず、また墓碑等の正式書体では隷書が使用されたが、
実用的な通行書体ではほとんど草書が使用されていました。(略)
(草書は)隷書の早書き体(草隷)から生じたものです。〉そこで井上さんは、実用書は記録として書きとどめることが前提であり、
速く書き上げる必要があり、戦乱時代の通行書体は草書と考える。つまり、『三国志』の写本は草書で書かれ、現存する『三国志』との間に誤字が生じたとする。
その誤字を正字に直して、邪馬台国問題を検証をする。
目次を見ると、文字のフィルター、筆写取得のフィルター、他文献との比較フィルターなどいろいろな検証がある。
いままで誰も気が付かなかった書体、字体の違いによる誤字、正字の考察によって、新しい展開が見えてくる。
帯にまとめがある。
〈陳寿が『魏志倭人伝』に記した倭国の女王卑弥呼が都とした
邪馬台国の場所は、畿内なのかそれとも九州なのか、あるいは、
それ以外の場所であったのかを様々な争点から検証した。
その結果、『魏志倭人伝』の記述を正しく読み解けば、
陳寿の記した倭国とは九州のことであった。〉〈邪馬台国は、やはり「北部九州」でしかありえない〉
井上さんの検証のユニークさは新鮮で、とても興味深い。
挿図:『草書体で解く 邪馬台国への道程』(2019・梓書院)の表紙(帯附き)。
|