『文藝春秋』の2013(平成25)年11月号に邪馬台国問題解決のターニングポイントになると思われるわれる重要な論考が掲載された。大型企画歴史の常識を疑え 邪馬台国を統計学で突き止めた:安本美典(数理歴史学者)、取材構成/河崎貴一である。
百年以上続く邪馬台国論争。九州説と畿内説をビッグデータで分析すると意外な結果が――と小見出しが続く。
《現代は、ビッグデータの時代です。遺跡の発掘調査が行われると詳細な報告書が作成されます。
(その結果、今までに膨大な考古学の出土遺物の情報が提供されています。)
これらの邪馬台国に関係するビッグデータを、統計学的手法によって検討できるのではないかと考え、
統計学の権威である松原望・聖学院大学大学院教授(東京大学名誉教授)と検討を重ねました。「魏志倭人伝」に記されている遺物をリストアップし、
統計的に検討のできる「鏡」「鉄の鏃」「勾玉」「絹」の四つについて、
各県別の出土数をもとに、ベイズ統計学に基づいて計算を行いました。そして、福岡県に邪馬台国があった確率は九九・九%、同じく佐賀県は0・一%、
そしてマスコミ各社が”本命”と報道する奈良県は0%という結果が出たのです。》「鏡」をはじめ、4種類の遺物についての各県の出土点数をあげ、
その割合をベイズ統計学に基づいて更新(確率の掛け合わせ)して、
どの県に邪馬台国が存在したかの確率を、安本先生は算出している。なんとも簡潔明瞭で、異論を挟む余地がない。
理屈は理解できるが、結論はなんとも信じがたい、という人がいるかもしれない。
しかし、それは学問的反論ではなく、単なる感情論である。
結論を否定したければ、ベイズ統計学を否定するほかはない。
去年の12月に、国立歴史民俗学博物主催の講演会「再考!縄文と弥生」があった。
私はそこで、 Alex Bayliss(英国)の「炭素14年代測定とベイズ統計モデルを用いたイギリス先史時代の叙述」を聞いた。
これからは、日本の考古学の世界でもベイズ統計学を用いての研究がすすむと思われる。
ベイズ統計学を否定することは、世界の研究方向に逆行することになる。
なお、松原望氏によるベイズ統計学についての著作には以下のものがある。
『入門ベイズ統計』(2008・東京図書)、『ベイズ統計学』(2017・創元社)、『ベイズの誓い』(2018・聖学院大学出版会)など。
『文藝春秋』誌は、政治、経済、経営、社会、歴史、芸能など多岐にわたる内容の総合雑誌であり多くの社会人に愛読されている。その社会的評価の高い雑誌に、邪馬台国問題についての新しい視点からの決定的な考察が掲載されたことは、快挙である。
今後、この結論を無視することは、許されない。
全文を掲載するので、是非ともご覧いただきたい。
なお、安本美典著『邪馬台国は99.9%福岡県にあった』(2015・勉誠出版)は、この研究成果の著作本である。また、『文藝春秋』には、本稿以外にも安本作品が掲載されている。
・1978.3 〔エッセイ〕アメリカの「文章読本」 1978-3月号(56-3)
・1982.5 統計心理学から日本語の語源研究まで 1982-5月号(60-5)
・1988.6 〔新聞エンマ帖―報道にもの申す〕危い!古代史報道 1988-6月号(66-7)
・2000.2 『国民の歴史』大論争―邪馬台国から大東亜戦争まで 西尾幹二・松本健一・安本美典 2000-2月号(78-2)
『文藝春秋』(2013年11月号)「邪馬台国を統計学で突き止めた」を以下に掲載する。
【1 P262-P263】 【2 P264-P265】 【3 P266-P267】 【4 P268-P269】
挿図:『文藝春秋』(2013年11月号)の表紙
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