館長だより 第11号
館長だより 第11号

館長の見聞録(3)

2012/06/24

   ☆ 悠久の美 展 見学記

 ”13年ぶりに出光美術館所蔵の古代中国、殷・周時代の玉器・青銅器を展示”

 宣伝文句に誘われて、雨の中を出光美術館所へ行って来た。(期日:4/3〜6/10)

 別に雨男というわけではないが、大塚遺跡に次いで2度目である。ちょっと雨がうらめしい。


 今回の展示のテーマのひとつが「倣古」(ほうこ)という。

 ≪唐末・五代時代の混乱をへて再統一を果たした漢民族の王朝、宋の歴代皇帝や知識階級がいにしえを復興する方法として選んだのが、「三代」(夏・殷・周)の象徴である古代の青銅器・玉器の再現と使用であった。≫と展示会図録にある。

 これが「倣古」である。

 「三代」への憧憬が、青銅器を当世風にアレンジした陶磁器を生み出している。

 美術館でなにげなく見ていた陶磁器の奥にそんな想いが込められていたとは、新鮮なおどろきを受けた。


 左が殷時代の青銅器、饕餮文尊(とうてつもんそん)である。

 右が南宋時代の磁器 青磁尊式瓶である。

 ならべてみれば一目瞭然、なるほどである。

 青銅器の形をそっくり磁器で表現している。

 中国風ルネサンスというところかもしれない。

 古代は偉大なり!


 玉器で一番の注目は「璧とj」である。

 璧は日本の遺跡でも出土しているドーナツ状の円盤である。これが天の象徴。

 jは中央に孔のある方柱状の造形物である。これが地の象徴。

 ≪古代中国に、中国人は天と地を考える上で独特の形態観念を発達させた。
 それが「天円地方」、つまり、天を円形に、地を方形とするという考えである。≫と図録にある。

 『周礼』大宋伯に「蒼璧を以て天に礼し、黄jを以て地に礼す」とあるという。

 「天円地方」の祭祀を行なう際にもちいたのが、特別な力が籠もった玉石で作られた「璧とj」である。

 日本の前方後円墳は、この「天円地方」の考えにもとづいて築かれているという研究者もいる。

 璧もjも、共に中央に孔があり、そこに象徴物を挿したらしいが、実際にはどのようにもちいられていたかは不明という。

 文明の深遠がここにある。



 最後が青銅器である。

 作家・宮城谷昌光が『王家の風日』のなかで感嘆している。

 ≪古代の蒙さのなかで、ひとり屹立して陽光をあびたように、卓抜した文化をもっていた商(殷)の人民、後世にさまざまなものを遺した。
 そのなかに青銅器がある。  ――これがほんとうに紀元前十一世紀につくられたものなのか。
 時空を超えて眼のあたりに厳然とある商の青銅器を視る人は、めまいにさえ襲われるかもしれない。
 それでなくとも商の青銅器には比類ない美しさと神秘とがあり、その器が悠久と宿してきた鬼気にうたれることはありうる。
 というのは青銅器――そのなかでもとくに酒器――は、その容積の大小にかかわらず、商の人民が信仰していた神霊を、宿止させる聖域にほかならないからである。≫

 作家の文章は、さすがにちがう。

 少々長く引用したが、青銅器のもつ荘厳な美を感じてもらえたらうれしい。

 今回の展示では、逸品がそろっている。


 写真6が鴟鶚ユウ(しきょうゆう)(ユウは占に口内にコ)。鴟鶚はフクロウ、ユウは香草を使った高価な酒を入れる器である。これは重要美術品に指定されている。

 写真7も鴟鶚ユウ(しきょうゆう)。頭部が蓋に、胴部が器になっている。翼にはキ鳳文(きほうもん)(キは大きな目をした一角一足の怪獣)がある。

 右が饕餮文ジコウ(とうてつもんじこう(ジは凹の下に儿、コウは角偏に光)。ジコウは怪獣形した蓋・注ぎ口・把手のついた酒容器である。怪獣は大きな角と耳を持ち、牙をむき出し、悪霊に襲いかからんばかりである。胴部は細部に至るまで精密な文様で埋め尽くされている優品である。

 天神を祀り、祖霊を敬うことは、どの民族とっても自然なことであるが、商や周の王侯貴族の熱中さは異常である。

 なにが、彼らをここまで駆りたてたのであろうか。

 そういえば、万里の長城も始皇帝の兵馬俑も異常だ。

 饕餮文の細密な紋様、奇異な両眼、器肌の凹凸の激しさ、妖気ただよう造形美。

 余人にはない、製作者の鬼気迫る執念を感じる。

 なにはともあれ、展示品に圧倒され続けた一日であった。


  写真1:『悠久の美』 展示会図録の表紙(出光美術館・2012)

  写真2:饕餮文尊 商(殷)時代後期・高26.6cm(展示会図録より)

  写真3:青磁尊式瓶 南宋時代・龍泉窯・高17.7cm(展示会図録より)

  写真4:穀粒文玉璧 戦国〜前漢時代径・23.8cm(展示会図録より)

  写真5:獣面文玉j 新石器時代(良渚文化期)・高5.3cm(展示会パンフレットより)

  写真6:鴟鶚ユウ 商(殷)時代後期・高20.0cm・重要美術品(展示会図録より)

  写真7:鴟鶚ユウ 商(殷)時代後期・高25.4cm(ブログ「おおた 葉一郎のしょーと・しょーと・えっせい」より)

  写真8:饕餮文ジコウ 西周時代・高31.4cm(展示会図録より)


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